アリエッタは、のどの渇きを覚えて本を一端ベッドの端に置いて立ち上がった。トル
ティニタはまだピアノに没頭していて、彼女がそうして立ち上がったことに気づいてさ
えいないようだった。アリエッタはそのトルティニタの背中を見つめ、優しげな笑顔を
向け、部屋の外へと出た。
 数分後、両手にハーブティーの入ったカップを持ち、わずかに開いていたドアを背中
で押すようにしてアリエッタは部屋へと戻った。相変わらずピアノを弾きながら歌って
いるトルティニタの邪魔をしないように片方のカップをすぐ近くの机に置き、自分のカ
ップに口を付けた。その時不意に、ベッドの脇のスタンドを乗せた棚の上に、まだ湯気
を立てているカップが置いてあるのにアリエッタは気づいた。

「……トルタ」

 本当は良くないことなのだが、よく見ればアップライトのピアノの上にも、多分トル
ティニタが自分で用意したカップが置かれている。アリエッタはそれを眺め、自分のカ
ップを脇にどけ、トルティニタの用意してくれたチョコラータ・カルダを口に含んだ。
 そして、もう一度本を開く。
 どうしてファータはいつも笑っていられるのだろうかと、もやもやとした疑問を胸に
しながら。
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